速さの文章題で迷うお子さまを見ていると、問題文を読んで式は立てられるのに答えが合わない、あるいは少し条件が変わると手が止まる、というパターンが頻繁に見られます。
速さの問題が難しい本当の理由は、計算が複雑だからではありません。「距離・速さ・時間の三者が量ではなく関係性として絡み合う」という構造を、お子さまがまだ身体感覚として持ちきれていないことにあります。公式を覚えれば解けるように見えて、条件が少し変わると崩れる。その根本はここにあります。
算数の苦手克服の全体像を先に確認したい場合は、中学受験算数の苦手を克服するガイドをあわせてご覧ください。
原因① 単位換算の習慣が固まっていない
速さの問題で最初に躓く地点が、単位換算です。「時速72kmを分速に直す」という操作が、問題ごとに意識しないでも行えるかどうか。ここが定着していないと、式を立てる段階でつまずきます。
中学受験の速さ問題では、時速・分速・秒速の3種類が同じ問題文に混在することが珍しくありません。「バスが時速54kmで走っている。家から駅まで20分かかった。距離は何kmか」という問題で、時速を分速に換算するか距離を分で割るかを反射的に判断できなければ、式の組み立て段階でエネルギーを使い切ってしまいます。
単位換算の習慣が固まっていないお子さまに見られる典型的な誤りは次の2種類です。
時速と分速を混同したまま計算する
時速54kmと20分をそのままかけて「1080km」という答えを出す。あるいは、分速に直した後でまた時間と混同して計算し直す。この往復が発生しているなら、単位換算の手順が「習慣」ではなく「そのつど考える作業」になっています。
換算した後の確認をしない
「時速54km ÷ 60 = 分速0.9km」と書いたまま、次の計算に進む。分速0.9kmという数字の大きさ(人の歩き速さより少し速い程度)を感覚的に確認する習慣がなければ、計算ミスがあっても気づきません。
単位換算は練習量で習慣化する技術です。解法の理解とは独立した反復が必要な領域です。
原因② 図示の不足
速さの問題は、線分図・ダイヤグラム(距離-時間グラフ)・面積図のいずれかを使って状況を可視化することが、中学受験レベルでは前提になります。しかし、図を描く習慣が定着していないお子さまは、問題文を読んで「頭の中で」状況をイメージしようとします。
情報量が少ない問題ならそれで解けることもありますが、途中で速さが変わる問題(旅人算・通過算・流水算)や、2人が同時に動く問題では、頭の中だけでの処理に限界が来ます。
図を描かない理由には2つのパターンがあります。
どの図を使えばいいか分からない
線分図とダイヤグラムの使い分けが判断できていない場合、「図を描こうとしたが途中で止まった」ことが続き、「図を描くのは時間のムダ」という誤った学習が起きます。実際には、ダイヤグラムは2つ以上の動くものが登場する問題、線分図は1人の移動距離を追う問題に向いています。この判断軸を持てているかどうかが分岐点です。
図を描くことで「解いた気」になる
図を描いたが、図から何を読み取って式に結びつけるかが分からない。このパターンでは、図を描くことが目的化して、分析につながっていません。図は「状況を整理するツール」であり、「描けば解ける呪文」ではないことを、改めて確認しておきたい点です。
原因③ 公式暗記への依存
「は・じ・き」の図(距離 = 速さ × 時間の関係を円図で覚える方法)は、一時的に問題が解けるようになる効果がある一方で、問題の構造を理解せずに式を当てはめる癖を定着させます。
この依存が問題になるのは、問題文の条件が「公式を当てはめる順番」に沿っていない場合です。「AからBまでの距離が12km、かかった時間が40分。速さは?」という直接的な問題では公式が使えます。しかし、「AがBに向かって出発し、途中でCからDが同じ方向に出発した。2人が出会った地点は?」という問題では、「は・じ・き」をどこにあてはめるかの判断が働きません。
公式への依存の深さは、次の問いで確認できます。「なぜ速さ×時間が距離になるのか、言葉で説明してほしい」。「単位時間に進む距離が速さだから、時間分かけると合計距離になる」と説明できるなら、理解している。「公式がそうなっているから」という回答が返ってくるなら、暗記状態です。
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3段階練習法 ステップ1: 単位を「自由に変える」訓練
ステップ1のゴールは、単位換算を「考えなくても実行できる状態」に持っていくことです。これは計算の問題ではなく、反射の問題です。
練習の構成は次のとおりです。
換算ドリル(5分 × 毎日2週間)
時速・分速・秒速を相互変換する問題を10問ずつ、タイマーで計測しながら解きます。正解率よりも速度を重視します。「正確にゆっくり」から「速く正確に」への移行を2週間で実現することが目標です。
例題のパターン:
- 時速90km から、分速何km、秒速何m への換算
- 分速80m から、時速何km、秒速何m への換算
- 秒速15m から、時速何km、分速何m への換算
このドリルで重要なのは、換算の「数え方」を毎回確認しないで済むようにすることです。「÷60」「×60」の方向をパターンとして体に入れることが目的で、数式の理解は別途確認します。
感覚チェック(換算後の大きさ確認)
換算した後に「この速さは何に近いか」を確認する習慣をあわせて作ります。分速1km(時速60km、一般道の制限速度程度)、秒速10m(時速36km、自転車の高速走行程度)などの目安を先に覚えておくと、計算ミスの自己検出ができるようになります。
3段階練習法 ステップ2: 線分図・ダイヤグラムを「描いてから解く」習慣
ステップ2では、問題文を読んだら必ず図を描く、という順番を習慣化します。ここで大切なのは「図が完成してから式を立てる」という制約を課すことです。
図の選択ルール
- 1人(または1つの乗り物)が動く問題なら、線分図
- 2人以上が同時または異なる時刻に動く問題なら、ダイヤグラム(横軸: 時間、縦軸: 距離)
- 速さ × 時間の面積として距離を把握したい場合は、面積図
この判断軸を先に確認してから、問題文に向き合います。
練習の手順
- 問題文を読む(式を考えない)
- 「何が動いているか」「いつ出発・到着するか」を問題文から抜き出す
- 図を描く(数値を書き込む)
- 図から「わかっていること」「求めたいこと」を確認する
- 図から式を立てる
この手順を「声に出しながら」実行すると、どの段階で詰まっているかが親から見えやすくなります。詰まる地点が毎回同じなら、そこが練習の優先箇所です。
ダイヤグラムの読み取り訓練
中学受験の速さ問題で得点差が開くのは、ダイヤグラムの読み取りです。グラフの傾きが速さを表し、2本の線が交わる点が「出会い」を表すことを、問題文と対応しながら確認します。
「この線の傾きが急なのはなぜか」「ここで線が平行になっているのはなぜか」を口頭で説明できるレベルまで持っていくと、問題文だけを読んでダイヤグラムを自力で作れるようになります。
3段階練習法 ステップ3: 文章題を「状況で解く」
ステップ3では、公式を使わずに「状況の理解から式を導く」練習をします。
具体的には、次のような問いかけを問題を解く前に行います。
「AがBより速い。同じ時間進んだとき、どちらが遠くにいるか」 「同じ距離を、速い方と遅い方が走ったとき、かかる時間はどちらが長いか」
これらは公式なしでも答えられる問いです。この感覚が定着していれば、「速さ×時間=距離」の式が「なぜそうなるか」を都度確認なしに使えます。
逆算練習
「距離12km、時間30分、速さは?」という問題を「式から」解くのではなく、「30分で12km進むなら、1分では何km進むか」という問い方で解く。この言語化の習慣が、問題の構造を読む力に直結します。
条件変更問題
同じ問題文で速さだけ変えた版、時間だけ変えた版を自分で作って解く練習も有効です。元の問題が解けたら、「速さが2倍になったら答えはどう変わるか」を問いかけます。数字を変えても同じ考え方で解けるなら、理解が定着している証拠です。
比と割合の理解と速さの問題は密接に関連しています。比と割合|「なんとなく」の理解を確実にするもあわせて参照すると、速さ=比の問題への橋渡しがスムーズになります。
よくある質問
Q. 「は・じ・き」の公式は覚えさせない方がいいのでしょうか?
公式そのものを覚えることは問題ありません。「覚えているが使い方の判断で迷う」状態が問題です。公式を覚えた後に「なぜ速さ×時間が距離になるか」を言葉で説明させる確認を1回行うことで、暗記と理解が結びついているかを確認できます。言葉で説明する場面で詰まるようなら、ステップ3の「状況で解く」練習に戻ることを優先します。
Q. ダイヤグラムは何年生から練習を始めると良いでしょうか?
速さが初めて本格登場する小5前半から、線分図とあわせてダイヤグラムの基本形を扱い始めるのが自然な流れです。ただし、比と割合の基礎(割合を数の関係として捉える)が定着していないと、ダイヤグラムの傾き=速さという対応を理解しにくい場合があります。小5後半に入る前に比と割合の確認を行うと、その後の速さ問題の定着がスムーズです。
Q. 線分図とダイヤグラム、どちらから先に練習すれば良いでしょうか?
線分図を先に固めることをお勧めします。1人が一定速度で動く問題を線分図で整理できるようになってから、2人以上が登場するダイヤグラムに移行する方が、図示の習慣が混乱なく定着します。最初からダイヤグラムに慣れさせようとすると、「図を描くこと」への抵抗感が生まれやすいため、シンプルな問題で図示の成功体験を積んでから発展に進む順番が有効です。
Q. 速さの問題は塾でも扱っているのに、自宅でどこまで練習すれば良いでしょうか?
塾の授業では解法の型を教えることが中心になります。自宅練習の役割は「型を身体化すること」です。ステップ1の単位換算ドリル、ステップ2の図を描く習慣は、授業で一度理解した後に家庭で量をこなすことで定着します。1日5〜10分の短い練習を継続することが、まとめて長時間やるよりも定着率が高い傾向があります。
速さの問題は「公式を覚えているか」よりも「単位換算・図示・状況把握の3つの習慣が定着しているか」で得点が変わります。
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